今から約50年前のことです。養護学校の先生に、卒業生の就職を受け入れてほしいとお願いされたんです。私は、知的障害者の方と接したことがなかったので、申し訳ないけれどもお断りしました。
しかし、先生は何度も足を運んで訴えられました。そして、「あの子たちは、一生働くことを知らずに、この世を終わってしまう人となるのです」とおっしゃいました。この言葉で、ようやく“同情心”が芽生え、「2週間程度の就労体験なら」ということで引き受けたのがきっかけとなりました。
障害者雇用を始めてはや50年が過ぎました。ここまで私を導いてくれたのは、知的障害者の皆さんにほかなりません。働くことの意味、人生にとって大事なこと、すべて彼らに教えてもらってきたのです。
今回、出版した書籍には、私が知的障害者に学んだ大切なことを書かせていただきました。派遣切り、リストラ、働き盛りのうつや自殺の増加など、近年、健常者にとっても、「働く幸せ」を実感することが難しくなっているように感じます。本書が、頑張って働いていらっしゃる皆さまのお力になれれば幸いです。そして、障害者も健常者も、老いも若きも、分け隔てなく、誰もが「働く幸せ」を実感できる社会をつくるために、皆さんと力を合わせていければと考えております。
大山泰弘プロフィール
1932年東京生まれ。鞄本理化学工業会長。
日本理化学工業は、1937年に父・要蔵が設立したチョーク製造会社。中央大学法学部卒業後、病身の父の後を継ぐべく同社に入社。1974年、社長に就任。2008年から現職。
1960年、はじめて知的障害者を雇用して以来、一貫して障害者雇用を推し進めてきた。1975年には、川崎市に日本初の知的障害者多数雇用モデル工場を建設。現在、74人の社員のうち53人が知的障害者(障害者雇用率約7割)。製造ラインをほぼ100%知的障害者のみで稼動できるよう、工程にさまざまな工夫を凝らしている。こうした経営が評価され、2009年、渋沢栄一賞を受賞した。 |